Correspondances | 12.21.2022
《万物は語る》第四回
ゲスト:珊瑚 語り部:アゴスティーニ・シルバン
千葉市立美術館|つくりかけラボ09|大小島真木〈コレスポンダンス〉
動物、植物、鉱物、地形、現象……、異能の語り部たちを通して語られる、人間以外の万物たちの言葉。パフォーマンスプログラム《万物は語る》第四回目のゲストは〈珊瑚〉、語り部は海洋生物学研究者のアゴスティーニ・シルバンさんです。(2022.11.5)
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私たちはサンゴと呼ばれている。
でも、それは人間が適当につけただけで、私たちは名前なんてどうでもいい。
いつ生まれたんだろう。
200年前かな、300年前かな。
どうでもいい。
とりあえずここにいる。
ここは温かい海。
透明で、名前のない、海。
その海に私たちはいる。
私たちはすごく大きい。
でも、まだまだ、まだまだ、成長する。
ずっと成長する。
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たぶん、あんたたちが私たちを見ても、私たちの体がどうなってるのかは、わからない。
近づいて見てみると、私たちはこんな形をしている。
私たちは一個じゃない。
私たちはいっぱいいる。
でも、一個ってそもそもなに?
私たちって何個?
私って一人?
私たちはそんなことどうでもいい。
ちゃんと見てみると、一応、私たちには口もある。
触手もある。
一応、食べてもいる。
ウンチもする。
でも、口とお尻が一緒になってる。
まあ、それもいいじゃない。
私たちは硬いものに見えているかもしれない。
それは私たちの骨。
私たちはずっと骨をつくってる。
ゆっくり、ゆっくり、骨をつくってる。
ずっと、ずっと、骨をつくってる。
200年くらいかけて、最初は目で見えないくらい小さかったところから、こんな2メーターくらいの大きさになるまで、骨の塊をつくっていく。
ゆっくり、ゆっくり、つくっていく。
骨をつくるのが早いサンゴもいる。
まあ早いといっても、1年に1センチくらい。
あんたたちにとっては遅いかもしれないけど、私たちにとっては早い。
塊じゃないサンゴもいる。
みんな好みが違う。
でも、みんな、私たちと同じ、私たち。
みんな一緒にいる。
骨を枝みたいな形にするサンゴもいる。
それも好み。
あんたたちはすっごい増えてる。
すっごい早さで増えてる。
なんでそんなに早く増えるのかなって思ってる。
私たちはゆっくり、ゆっくり、成長する。
✴︎
サンゴにはこんな変なのもいる。
彼らは一人で生きてる。
地面にもくっついてない。
でも私たちは生まれたところでしか生きない。
そこにずっといる。
とりあえず、みんな成長する。
骨をつくる。
ずっと骨をつくる。
骨が広がって伸びていく。
場所に広がっていって、空からの光を得る。
それが私たちの生き方。
とりあえず、骨をつくる。
私たちは骨をつくって棲み家をつくる。
私たちが生きてる棲み家には、他の生き物もいる。
魚もいる。ナマコもいる。貝もいる。ウニにもいる。
みんなのために骨をつくってる。
ずーっと、つくってる。
樹枝状、葉状、塊状、被覆状、テーブル状、いろんな形の骨。
みんな一緒に骨をつくってる。
みんながつくって、つくって、つくって、そうしてできるのが、サンゴ礁。
私たちは、そのサンゴ礁の基礎。
サンゴ礁そのもの。
他の誰かの棲み家でもあるし、他の誰かの餌でもあるし、他の誰かの隠れ場でもあるし、他の誰かの遊び場でもある。
それが私たちがつくるサンゴ礁。
みんなの場所。
私たちは200万年前にできた生き物。
200万年前から骨をつくってる。
つくって、つくって、つくって、ある日、死んで、その死んだ骨の上に、他のサンゴがまた骨をつくって、つくって。
重なって、重なって、それがサンゴ礁になる。
✴︎
実は私たちには秘密がある。
温かい海の中には私たちの餌があまりない。
餌がないと元気が出ない。
死んでしまう。
でも、私たちは死なない。
それは私たちの皮膚の中に仲間がいるから。
仲間、かな?
とりあえず、いる。
この小さくて茶色いのが、私たちの皮膚の中に、何百万、何千万といる。
彼らは褐虫藻と呼ばれてる。
小さくて、たくさんいる。
行き場がなかったから、私たちの中に入ってきた。
私たちの細胞の中に。
彼らはすごい。
私たちの餌をつくってくれる。
ずっと、ずっと、つくってくれる。
私たちは生まれてからずっと一緒にいた。
私たちはずっと彼らがつくる餌を食べてきた。
海の中には甘いものとかない。
彼らが甘いものつくってくれる。
でも、たまに物足りない時もある。
そういう時は頑張って海の中のプランクトンを食べる。
海が浅かったときは良かった。
褐虫藻は光で餌をつくる。
海が浅いといっぱい光があって、いっぱい餌をつくれる。
最初の100年間はそうしてた。
でも、ある日、海から頭がでた。
ハゲちゃった。
もうこれ以上は伸びることできない。
しょうがない。横に伸びることにした。
それが100年続いてる。
ずっと、ずっと、横に伸びてる。
でも、別のサンゴも横に伸びてきた。
ぶつかる。
どっちかが殺されちゃう。
しょうがない。
これも運だ。
私たちはずっと、ずっと、ずっと、同じ場所にいる。
同じ場所から、横に、横に、伸びてく。
そこがいい場所なのか悪い場所なのか。
それは100年後にわかるかもしれない。
✴︎
私たちの穴の中にゴカイがいる。
ゴカイって可愛い。
飾りになる。
おしゃれ。
魚もいっぱいいる。
魚は私たちを食べようとする。
私たちはかじられちゃう。
でも、まあ魚も食べなきゃしょうがない。
痛い。
でも、私たちの一部が食べられても、私たちは大丈夫だ。
私たちは200年前に生まれた。
魚にかじられるくらい大丈夫。
私たちは貝にも食べられちゃう。
貝って遅い。
ずっと私たちを食べ続けてる。
ゆっくり、ゆっくり。
でも、逃げられない。動けない。
貝も食べなきゃ。
それはしょうがない。
ずっと、とりあえず、誰かが骨つくってれば大丈夫。
ただ、最近、こんな奴もきた。
オニヒトデ。
彼らはすごい食べる。私たち全部が食べられちゃう。
なんか変な液で溶かしてくる。
私たちの骨まで溶かしてくる。
長く、長く、時間をかけてつくったのに、その骨が溶けていく。
つらい。
でも、しょうがない。
ヒトデも食べなきゃ。
✴︎
一番悪いのは、あんたたち。
あんたたちは、最近、海の中に来た。
今までいなかった。
それで私たちの上に乗ってる。
なんで?
まあ、しょうがない。
最近、暑い。
暑いのもあんたたちのせい。
暑くなると、痒くなる。
痒くて、痒くて、しょうがない。
今まで仲間だった褐虫藻も調子悪い。
褐虫藻が調子悪くなると痒くなる。
痒すぎる。
だから吐き出しちゃう、褐虫藻を。
しょうがない。しょうがない。
ただ、甘いものなくなっちゃった。
それで弱っちゃった。
私たちから褐虫藻がいなくなると、私たちは白くなる。
白って綺麗だなと思う。
それは骨だから。
骨は白くて綺麗だから。
でも、私たちは弱っちゃう。
お腹すいた。
私たちは強い。
でも、早く成長してるサンゴは弱い。
死んでしまう。
暑さで死んでしまう。
最近は毎年、暑い。
暑い時期が長い。何ヶ月もある。
こうなったらどうしようもない。
あんたたちのせい。
今まで私たちはここにいたよ。
ずっと骨つくってたよ。
でも、最近もう骨つくれない。
やる気でない。
お腹すいたし、暑いし、痒いし、海も汚い。
あんたたちのせい。
…………でも、大丈夫。
私たちは生き残れる。
あんたたちがいなくなった後も。
私たちは200万年前からいるんだから。
ただ最近、本当に周りのサンゴたちが、次々とガレキになってる。
どうしようかな。
まあ、でも大丈夫。
乗り越える。
なんども乗り越えた。
色々なこと乗り越えた。
私たちは強い。
私たちは、ずーっと、ずーっと、骨をつくり続ける。
早くあんたたちがいなくなれば幸せだな。
まあ、それもどうでもいいけど。
とりあえず、私たちは骨をつくる。
ゆっくり、ゆっくり、骨をつくる。
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画像提供:アゴスティーニ・シルバン
アゴスティーニ・シルバン/南フランスの地中海のそばで生まれ育ち、2005年に来日。筑波大学の下田臨界実験センターーで海の研究を続ける。タラオセアンジャパン理事。