Correspondances | 11.21.2022

《万物は語る》第三回

ゲスト:粘菌 語り部:唐澤太輔
千葉市立美術館|つくりかけラボ09|大小島真木〈コレスポンダンス〉

動物、植物、鉱物、地形、現象……、異能の語り部たちを通して語られる、人間以外の万物たちの言葉。パフォーマンスプログラム《万物は語る》第三回目のゲストは〈粘菌〉、語り部は南方熊楠研究者の唐澤太輔さんです。(2022.10.29)

 

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ここは、どこでしょうか。

しばらく、生ぬるさの中で、まどろんでいました。

 

眠りと目覚めのあいだで、少し思い出しました。

そう、前にも一度目覚めかけたことがありました。

そのときは、ひどく寒かったのです。冷たい風が刺々しく吹き付けていました。

 

突然、冷たい小さな塊が、上からふわっとカムサッてきました。

少しだけ重かったけれど、潰されずに済みました。

それはすぐに溶けて、からだを覆いました。

 

ひやっとして、チムカッタ

からだがぐっと、ツヅマッタ

悲しくなって、トゥントゥン震えました。

 

「世界」は何と過酷なことか。

 

我慢している内に、また眠ってしまったようです。

 

それから、どれくらい経ったのでしょう。

短かったような、長かったような。

今は、まどろみの中にいます。

 

もう一度、眠ろうと思いました。

でも、もう無理です。

 

……ウヤウヤウヤウ……

 

 

✴︎

 

 

温かさが増してきました。

すべてが温かく……いやもう暑すぎる!

外からからだを照りつけるような感じ。

痛いほどではないけど。

とてもポルテルします。

これを浴びていると、からだ全体がホーワワと騒ぎ出してきました。

内側からも沸き返ります。

内側の一つ一つが、ほとばしるように目を覚まします。

もう溶けそうです。

 

これからからだがどうなっていくのか、気をつけながら語っていきます。

外側を感じながら。内側を感じながら。

 

溶けてきました。

違う。全体が柔らかく伸びだしたらしいです。

今まで固まっていたのに。

緊張してこわばったからだがほぐれていきます。

カピテラだったからだ。

 

……ウヤウヤウヤウ……

 

 

✴︎

 

 

やわらかくなっていきます。

トゥルッとたくさん染み出していきます。

 

もう眠れません。

動きたくて動きたくてしょうがないのです。

この気持ち、わかりますか?

きっと、どこまでも動けるし、大きくなれるに違いありません。

ナギョーっとからだを伸ばします。そして触れるのです。

 

伸ばして、伸ばして、触れる、触れる。

ラーーーラーーーッチッチ……

 

ゆっくり、でも確実に、慎重に。時々、大胆に。

 

ここは、柔らかいし、トュボトュボチュタチュタしています。

でも、水の中ではないようです。

 

 

✴︎

 

 

柔らかいけど、ドゥルリンネ

たまに、ピッタスジンジロジリン

表面を進むことも奥に潜ることもできるのです。

奥は、もっと、ッデュターンとしています。

全身が嬉しくなります。

 

これが「喜び」ということ。

 

動いてみてはじめて知りました。

動けることを初めて知りました。

だから、動けなくなるまで動こう。

 

自分の中で何かが行ったり来たりしています。

進んでは戻り、戻っては進む。

ロロロロロロロロロロ

 

 

✴︎

 

 

何かが流れるのです。

温かくて、柔らかくて、つまりポン・ピン・パンな何か。

ドッピンドッツンと、ゆっくり、行ったり来たり。

他愛もないこのポン・ピン・パンが、からだの中を流れ続けます。

この流れが、全くもって心地よいのです。

 

しばらく成り行きに任せていました。

すると、からだが慣れてきて、少しずつ前に進むことができるようになりました。

ミぐッミぐッと進む、進む。

 

 

✴︎

 

 

上にも下にも行けます。

進むことも戻ることもできます。

 

からだの形が変わっていきます。

今日も変わる。明日も変わる。何でもない何かに。

増える、増えていく。つまり、ゾリットス

 

あっちへ行こう。こっちへ行こう。

ドックドックスーハードックハー

 

 

✴︎

 

 

何かが当たりました。

でも、硬くないし、シャスシャスもしていない。

スランぺリンとしていて、何ともちょうど良い大きさで、優しい感じ。

小さくて細長くて滑らかで、ミングモングしています。ソチヌイ

耐えられないほどくすぐったいのです。つまり、ギソチヌイ

だから、この何かを押さえつけるように、からだ全体でカムサッたのです。

 

何かは、すっと溶けました。

そして、体の中のポン・ピン・パンと一緒に流れ始めました。

爽快な感じ。力が出てくる感じ。ありがたい感じ。パラパイタな感じ。

 

食べてみて初めて知りました。

食べられることを初めて知りました。

 

動けば動くほど、食べたくなるし。

食べれば食べるほど、動きたくなるのです。

 

「世界」は美しい。美しいとはこういうこと。

 

 

✴︎

 

 

いらないものは外へ出します。

食べて、出す。食べて、出す。

モヌッペッモヌッペッ

出したあとに、からだの形がそっくり残りました。

 

気づいたら、からだが大きくなりすぎたようです。

 

 

✴︎

 

 

崩れてしまいました。

柔らかくてトュボトュボチュタチュタした場所が、突然崩れてしまいました。

私も崩れました。私はいくつかに分けられてしまいました。

 

私?

あれも私。これも私。どれも私。

また機会があったらくっつこう。さようなら私。

 

 

✴︎

 

 

同じ感じがします。

そこにいるのは私?

同じ感じがします。

同じ感じ。漂ってくるもの、例えばフォズロームが同じ。

くっついてみたら、くっつけました。

 

くっついたところから、ポン・ピン・パンが、ドッピンドッツンと流れ込みました。

ワパワパ元気が出てきました。

私は、私とくっついたのです。ネチャンケして、私たちは私になりました。

不思議と、怖くはありませんでした。

私は私のままで、私たちになれるから。

 

同じフォズロームだけど、どうも性に合わない感じがするものもいます。

そういうのは、放っておこうと思います。

動いて、動いて、同じことを繰り返しました。

 

……コニコニコニコニ……

 

私? 私たち?

私の中に私たち。私たちの中に私。

 

 

 

 

✴︎

 

 

少し、はしゃぎすぎたようです。

もう、食べものがなくなってきました。

水もなくなってきました。

空腹で切ない。

 

 

✴︎

 

 

引っ張られます。

同じ方向に、からだが伸びていきます。

上に、ハキョキョキョキョと、引っ張られるようです。

からだじゅう、いろんなところが上に上に伸びていきます。

からだじゅうから、ツーパーツーパーと水気が抜けていきます。

 

曖昧だった私たち。

どんどん壁ができていきます。一つ一つが区別されます。

別々になって形が変わっていきます。

 

 

✴︎

 

 

私の壁の中には、私たちがたくさん詰まっています。

小さな粉のような私たち。

軽くてトテチコな私たち。

 

 

✴︎

 

 

突然、ヴェイボーと強い風が吹きました。

壁は弾けて、私たちは一斉に空に舞い上がりました。

そのあとは、風にからだを任せました。

パーパラパーラクリンクリン

 

硬くてカハッとした場所に落ちたり。

爽やかで軽々しい雰囲気の中を漂ったり。

ギンギンするほど冷たくて乾燥した空の一番上に行ったり。

上に行ったり下に行ったり。これはまさに、シューピン・リルリ

多分、楽しい場所に行けるはずです、多分。

 

 

✴︎

 

 

──ここはどこでしょう。

風に乗って飛んだ後、どのくらい経ったのかわかりません。

 

風は凪いだようです。

ここは、柔らかくて温かくてトュボトュボした場所。

初めてだけど懐かしい。

心地いいけど、私はこのクフクフした壁から出たい、全部出したいのです。

あまりにも懐かしくて、穏やか。

この優しさに打たれて、粉の私は吐き気を催しました。

悲しくない。辛くはない。

あまりにも大きな優しさに触れて、衝動的に吐きました。

 

 

✴︎

 

 

何かが出てきました。

ヅヌラと何か染み出てきました。

私が出てきました。

今は、私だけ。

 

必死に動きました。

せわしなく動きました。

躍起になって動きました。

 

水の中も泳ぎました。

知らなかったけど、私には泳ぐのにちょうどいい二本のパヤヤが生えていました。

だけど、一本は短く、一本は長い。

だからあまり上手く泳げません。

もっと上手く泳げたら、ずっとここにいるのに。

 

「世界」は何と厳しいことか。

 

 

✴︎

 

 

水からは出ることにしました。

出て、トュボトュボしたところに行きました。

 

同じフォズロームをかもすものが近くにいます。

私は、こんな小さくてはたまらないから、それとくっつくことにしました。

やっと会えた。やっと会えた。あなたは私で、私はあなた。

私と私がつながって、大きな私ができました。

 

もっと大きく、もっと大きく。オトゥアムオートゥアム

 

 

✴︎

 

 

一番近い道を通って、小さくて細長くて滑らかでミングモングしているものに近づけました。

カムサッて食べるのです。そして出します。

私は私をたくさん作って、一つの私になります。

そしていくつかに別れて、無数の私を生み出すのです。

 

うごめきながら、今日も生きています。

 

 

✴︎

 

 

──なんだか急に寒くなってきました。

嫌な感じ。好きじゃない。アゾワリムルン

私たちは、一箇所に集まって、固まって、眠りました。

ツキツキキュンと硬くなって、動くのをやめました。

 

 

 

 

 

 

 

もう少し気持ちよくなったら、目を覚まそう。

 

 

 

 

 

 

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制作:秋田公立美術大学粘菌研究クラブ(岩長凛、金子美葵、唐澤太輔、木村和歌葉、國友舞、後藤那月、坪谷奈摘美、早坂葉、平山はな、船山哲郎、山田汐音、山本夏綺、林文洲)

語り:唐澤太輔

パフォーマンス:後藤那月

スライド:金子美葵

協力:秋田公立美術大学附属高等学院

 

 

 

 

唐澤太輔 からさわ・たいすけ/1978年神戸市生まれ。秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科ならびに美術学部アーツ&ルーツ専攻准教授。専門は、哲学、比較思想、南方熊楠の研究。

 

 

 

 

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